女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
13章 愛している
「桜花。賭けのこと、知っていたのか?」

「ええ。偶然でしたけれど、知っていましたわ。だから、どうしても負けられませんでしたわ」

桜花は対局に勝った喜びと、見合いを回避できた喜びで、高揚し饒舌になっている。

「待合室でずっと対局を見守っていた。何度も声援を送った。自分が指している時よりも、苦しかった」

翡翠は対局の間中、勝ってほしい、何としても勝って見合いを阻止してほしいと祈るような思いだった。

「私はただ勝つことだけを考えて指していましたわ。翡翠さんにお見合いをさせたくなくて、どうしても勝たなければと……」

「俺は不甲斐ないな。君には心配をさせてすまなかった」

翡翠の表情は憂いを帯び、伏し目がちだった。

「お見合いするかもしれないと知った時は悔しかったですけれど、それでスイッチが入りましたわ」
< 64 / 66 >

この作品をシェア

pagetop