女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
「桜花。清麗戦の準備は順調か」

「はい、決勝までのシュミレーションと見里女流清麗の棋譜研鑽はしています」

「本戦にはくらいついてでも勝ち上がれ。見里との5番勝負、楽しみにしている」

「はい、師匠」

「それから、体調管理はじゅうぶんにな」

端島は桜花の目を見てつけ加えた。

端島は桜花が病院の娘で、あまり丈夫ではないのを知っているためか、試合前には必ず「体調管理はじゅうぶんに」と念を押す。

「ありがとうございます」

桜花は部屋を出て、ひと息つく。

いい人なんだけど、師匠でなければ関わりたくない人だと思う。

翡翠も端島の師匠だったと聞いていなければ、おそらく端島に師事してはいないだろうと思う。

桜花は端島邸の玄関、靴を履いた後、鞄からおもむろに除菌スプレーを取り出し、手に吹きつけた。


端島邸、門柱前。

端島の弟子で22歳の萩尾が、桜花が出てくるのを今か今かと待って、玄関と門柱の間を行き来していた。
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