幽霊の依子さんは 今日も旦那様を愛す
満開の桜が散り始め、木の下にピンクの絨毯がしかれ始めた季節。


私、大路依子は無機質な白い病院のベッドに仰向けになっていた。
体には何本かの管が繋がれている。

「・・・ごめんね、修平・・・」
「依子・・・」

「先・・・に・・・死んじゃっ・・・て・・・ごめ・・ん・・・」

「依子!死ぬなんて言うな!」

「・・ごめ・・・」


意識が混濁するのが嫌で、鎮痛剤を使うことを拒否していたけれど、日に日に強くなる激痛に耐えきれず、私は痛み止めの点滴を受けることにした。

眠る前に話をしなくては。

話したいことはたくさんある。
あり過ぎて何を話したらいいのかわからなくなってしまう。

けれど、これだけは言わなくちゃ。


「修平・・・。私を修平のお嫁さんにしてくれてありがとう・・・」

「しあわせ・・・だったよ・・・。
一人に・・・して・・ごめ・・・なさい。
しあ・・わせに・・・・なって・・」

「依子!」
「愛・・してるわ」


「依子!俺も!俺だって愛してる!」

「修平・・・泣かないで・・・」
私は震える手を伸ばし、修平の頬に触れた。
そして、指先で涙を拭いた。出来るだけ優しく、愛しい修平の涙を拭いた。

「きっと・・・あなたを愛して・・くれる人と・・・出逢えるわ・・」
「そんなことあるわけない!
俺はずっと依子だけ愛してる!」

「あり・・が・・と」
わたしは嬉しいと思ってしまった。
愛する修平から『ずっと愛してる』と言われ、修平を一人にしてしまうのに喜んでしまった。
なんて、自分勝手なんだろう。
そんな想いを押し隠し、微笑んだ。

「お願い・・・しあわせに・・なって」
 

私は産めなかったけれど、子供好きな修平の子供を見てみたい。
きっといいお父さんになるわ。

「約・・束・・・」

「依子っ・・・」

「修平・・・奥さんになれ・・・・しあわせ・・だった・・・」

「あり・・・がと・・・」

「依子ぉ・・・」


修平。
大好き。

「修平・・・」



ねぇ修平。私、ちゃんと笑えてる?
あなたに笑顔を見せれてる?
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