おばあさんが忘れ物をした理由✩.*˚
 今は夫が持っていたものを忘れ、その場に置いていってしまって。それを私が探しに行ったり「あなた、忘れていますよ!」なんて言ってその場でお伝えする感じになっていますけれどね、もとは逆だったんですよ。

 昔は私がよく忘れものをしたものです。
 わざとね。

 だって、デート中喧嘩した時とか、険悪なムードの時に公園のベンチとかにささっと鞄を置いて、忘れたフリして進んだら絶対にあなたは気がついてくれて、鞄をとりに戻ってくれて。『おっちょこちょいだな』みたいな顔して口角上げながら渡してくれるんですもの。

「あら、すみませんねぇ」って受けとり、ふふっと私が微笑むと、いつも「行くぞ!」と言って照れくさそうに手を握ってくれて。仲直りして――。

 その瞬間のあなたの顔が、好きでした。

 今は、あなたが忘れていたものをあなたに渡した時『とても申し訳ないな』って顔していますけどね、昔はいっぱいあなたが私にしてくれましたから、恩返しといいますか、気にしなくても良いですからね。

 申し訳なさそうにしている時のあなたの顔も、好きですけどね。


 もう、六十年以上前でしょうか?
 私達がお付き合いを始めたのも、私の忘れものがきっかけでしたよね。まだお知り合いではなかった頃。バスに乗り私があなたの隣に座っていた時に、私がその席に忘れていった鞄を、あなたが届けてくれて。あれも、わざとですからね。

 だって、あなたに一目惚れしてしまったんですもの。

 そしてね、その時から感じていましたの。この人はきっと、忘れものを私に届けてくれるんだろうなって。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

イケメン俳優パパ『生田 蓮』に恋をして――。

総文字数/29,226

恋愛(純愛)47ページ

表紙を見る
君のためのウエディングドレス

総文字数/7,353

恋愛(純愛)16ページ

表紙を見る
演歌界のイケオジ『神月京介』の恋心

総文字数/10,502

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop