課長のケーキは甘い包囲網

 呆れた目をした沢島課長が言った。

「こいつは実家が料亭なのに、全く料理できないんだよ。食べさせてもらう専門だったらしい。結局ここでもあまり変わってないな」

「……恥ずかしい限りです、はい」

「そうなんだ。それはラッキーだね。こんなに料理がうまい男はまあほとんどいないだろうな。こいつは何しろ料理も、スイーツも作れるし……いやあ、俺が結婚したいくらいだよ」

「そうですよね、私もそう言ったんですよ、結婚したいって、あっ!」

 私は口を押さえた。馬鹿じゃん私。春日課長がニヤニヤしてる。

「なに?沢島に田崎さんがプロポーズしたの?」

「ち、違いますよ、だから、ほら冗談で。春日課長と一緒ですよ」

 隣に座った課長は黙って、鍋の中身を三人に分けている。

「あ、すみません。私がやります」

「まあ、いい。ビールでもどうだ、春日?」
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