課長のケーキは甘い包囲網
「ああ、メールしても無視されてた。俺はフラれたんだからな」
自虐的に話した。ビールを一気飲みする。
「本人から聞いて欲しいが、あいつは事件に関係なく転職を大分前から考えていたらしい。でもお前がケーキを作れなくなったと聞いて心配していた。実は何回か俺はあいつから連絡もらってお前のこと聞かれていたんだ」
「……はあ?何だと!?どうして言わないんだよ!?」
「澄川から口止めされてた。それに、お前をあの修羅場へ置いてきたことを悪いと思っていたみたいだ。でも、実家関係を考えるとあれでやっぱり良かったんだろ。取引がなくなるとお前の家にも迷惑がかかるだろ」
俺の母方は地方の小さな洋菓子メーカーだ。地元でいくつか店を出している。
父はサラリーマン。母方の祖父母、母の弟なども店をやっている。
俺は小さい頃から遊びながらケーキを作り、普通に出来るようになった。
製菓学校へ行ったのも、何も考えていなかった。
今いるこの会社は洋菓子メーカーでは大手。母方の店はイベントなどで一緒になって、ここの担当者と知り合いだった。