課長のケーキは甘い包囲網

 入社も俺はそのせいで特に何もせず決まってしまった。澄川は、自力で試験を突破して入った。俺より実力もあった。

「澄川に、お前に消息を伝えていいかと聞いたら、やっと許可してきた。理由はな……落ち着いて聞いてくれ。彼女結婚が決まったらしいんだ」

「……そうか」

「すまない。こんなこと伝えるのは本当に辛いんだが、お互い元気でやっているならそれが一番だと彼女は言ってたよ。ケーキを作れなくさせたのも自分だと責めてた。澄川はお前が自分といると、ケーキ作りから遠ざかると言ってた」

「そんな風に思わせていたんだとしたら俺は最低だな。自分の劣等感を彼女に知られていたんだ。これで交際相手だなんてよく言えるよな。捨てられて当然だ。あのときも俺は何も出来なかった」

「おい、やめろよ。それは、違うだろ。悪いのはお前じゃなくて、当時の周りだ。人事課長だってすごく反省していただろ。だから、お前を入れてくれたんじゃないか」

「……」

「お前がプライベートでは今でも色々作っていて、俺はそれを食わしてもらってんだぞって話したんだ。そしたら喜んでた。お前を頼むとか言われちゃったぞ。ようやく、俺以外にお前を頼める子が現れたな」
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