課長のケーキは甘い包囲網
有紀はほっとした表情を見せた。
「ああ、つい最近だ。ある人の誕生日ケーキを作った」
「姿を消してあなたが作れなくなったと聞いて……でも私には連絡する勇気がなかった。ごめんなさい。繊細なあなたを追い詰めていたことにようやく気づいて、さらに連絡出来なくなった」
「お前のせいだけじゃない。何のために作っているのかわからなくなっていた」
「今は何のために作るかわかっているのね。もしかして支えてくれる人がいるの?」
「好きな奴がいる。その存在自体に救われているんだとようやく気づいた。有紀、結婚するそうだな。おめでとう」
「ありがとう。ホテルの人なの」
「お前のようなじゃじゃ馬を乗りこなすなんて大人な男だな、きっと」
「そうね。あなたほど繊細ではないかな。いい加減にしろっていつも怒られた。でも、素敵な人よ」
「そうか、良かったな。自分らしくいられる相手が一番だ。じゃあ、俺は帰るよ。猛烈にケーキが作りたくなってきた。材料をあちこち回って買って帰りたいからな」