課長のケーキは甘い包囲網

 私はひとりカードを持ったまま、猛烈に悲しくなってきた。だって、とても綺麗な字……私より綺麗だ。それに、春日課長が言ってたけど、元カノは美人だったらしい。実は、開発課のあの仲の悪い篠田課長とは恋のライバルでもあったと聞いた。

 きっと、三人にいろいろなことがあったんだろう。フラれたって課長は思ってるって言ってたけどそうじゃないような気がする。だってこのカードの言葉には愛情がある。

 夜になったら、しらふになったら、もう一度告白してやるってさっき言ってたよね。返事を考えておけって。嘘ばっかり。笑っちゃうよね。課長はそんなこと、すっかり忘れてると思う。今頃頭の中は元カノだらけ。

 このメモやケーキを食べたら、目の前の不出来な私なんて目に入るわけがない。私なんて、失敗だらけだし、美人でもない。字も綺麗じゃないし、何しろケーキも作れないし、料理だって……。

 考えていたら膝に涙がぽつりと落ちた。馬鹿だ、私。比べるだけ馬鹿みたい。すみれ、しっかりしろ。自分を見つめ直せ。

 そうだ。どうしてこんなことになった?私がキチンと早く家を捜さないからだ。すぐに契約して、いや、とりあえずここを出よう。

 まだ、あちらは解約していない。荷物もあるし、ここに家賃を入れてないから私はそのままにしてあるんだ。
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