課長のケーキは甘い包囲網
課長は絶対ツインスターホテルの有紀さんへ会いに行ったんだ。
うわごとでいうくらいだ。彼女のことよほど好きだったんだろう。きっと未練があるに違いない。
私は課長も心配だったけど、あのイチジクのケーキを作った元カノさんがどんな人なのかとても興味があった。
結局、いても立ってもいられず、定時で上がって自分もカフェをのぞきに行こうと決めた。
無理矢理仕事を残したまま定時であがるのは難しいかと思っていた。
ところが誰もそれを責めないどころか、鬼の居ぬ間に早くあがろうと皆で口々に言って、ノー残業デイになった。
鬼とは課長のこと。普段の課長は鬼のように仕事に厳しいのだ。課長の直帰なんてみんなにとって憩いの日。
私もそれに便乗してあがると、急いでタクシーでホテルへ向かった。
カフェへまっしぐら。課長はいるだろうか?恐る恐る歩きながら、きょろきょろして周りを見た。
でも、背の高い彼のような人は見当たらなかった。そろそろとショーケースの前に移動した。