課長のケーキは甘い包囲網

 あった、あった。ショーケースの一番いいところに、最新作という札があって、オススメと書いてある。

 例のイチジクのパウンドケーキが置いてある。ええ!?すごい値段なんですけど。これをくれたの?さすが元カノ。

 いや、作った人ならあげられるのか?馬鹿なこと考えてショーケースをじっと見ていたら、帽子を被った人が出てきて、お決まりですかと聞いてきた。

「あの。このイチジクのケーキを作られた方は……今日いらっしゃいますか?えっと確か、お名前は有紀さん……」
 
 思いきって勇気を出して鎌を掛けてみた。私、手が震えてる。

「ああ、澄川でしたらすみません、今日はもうあがってしまっておりません。明日でしたらオープン時間からおりますけれども、お約束ではないですよね?」

「はい。たまたまこの間このケーキを頂いて……食べたらとても美味しくてお伝えしたかったんです。知り合いの知り合いで、あの……」

「そうでしたか、ありがとうございます。彼女にも伝えておきます」
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