課長のケーキは甘い包囲網

 彼が横に並んで倒れた。時計をじっと見ている。私は彼を見ながら言った。

「……私、今日お仕事、休んだらまずいと思うんです」

「大丈夫だ。それにもう九時近い。どっちにしても俺が会社に一度連絡を入れておく。お前から俺に連絡が来たといっておくから、お前は誰にも連絡しなくていいぞ」

「だって、研修の資料途中なんです。昨日定時であがるために、途中で……」

「じゃあ、俺と一緒に午後から会社に出て、普通にしていられるのか?」

 間違いなく、それは無理だろう。今だって、課長を見るだけでドキドキしている。そして、身体がだるい。

 後ろから抱きしめられた。

「身体も辛いだろうし、今日は桜井に頼んだほうがいい。メールでもしておけ。一応お前は熱があることにするからな」

「……はい」

 まあ、確かに桜井さんにお任せしたほうがずっと早く進みそう。間違いもなさそうだしね。そう言うと、課長は部屋から出て電話をしに行った。戻ってくると笑っている。
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