課長のケーキは甘い包囲網

「すみれ」

 ふたりで低い声を聞いてビクッと身体を震わせた。

 振り向くとお父さんが立っていた。うわ、なんかしわが増えた?

「……あ、お父さん、ただいま戻りました」

「ああ、本当に帰ってきたんだな。急だったな。まあ、いい。あとでな。しげ、すみれの分は俺が作るからいいぞ」

「「ええ!?」」

 しげさんがびっくりしてる。そりゃそうだ。私の賄いなんて適当でいいといつも言ってた人がどういったこと?

「久しぶりだから、本物の料理を思い出させてやる。店の方で待ってろ。出来た分から運ばせる」

「……うん。ありがとう。楽しみ、久しぶりのお父さんの料理」

 にっこり笑ってお父さんを見たら、私を見て固まってる。しげさんがクスクス笑ってる。なに?
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