課長のケーキは甘い包囲網
「おやっさん。すみれさん、綺麗になりましたよね。俺も驚いたんすよ」
「……う、うるさい」
そう言うと、お父さんは赤くなって後ろを向いて厨房へ戻っていった。しげさんは私に手を振っていなくなった。
お店に入るとお客様が思ったよりも多い。私はひとりなので、テーブルの一人席へ。いつも私が店で食べる場所。懐かしい。この出汁の匂い。帰ってきたという気がしてきたぞ。
すると、フルコースの会席料理が出てきた。初秋のキノコづくし。美味しすぎる。泣きそうになった。
やっぱり、本格的な出汁で作る料理って身体にいいって感じ。特に何をするって事でもないと思うんだけど、キノコを揚げただけなのに塩だけで美味しい。
煮物も薄味で美味しい。ああ、幸せ。ひとりでにまにましながら食べていたら、お母さんがこっちに来て、笑っている。
「お父さんが嬉しそうにしてたわよ。お前が食べてるところをさっきそこから覗いて見てたの。美味しそうに相変わらず馬鹿面で食べてるとか言いながらニヤニヤして嬉しそう。なんだかんだ言ってお前のことが可愛いのよね。それに、綺麗になったすみれを見て驚いてた。少しは予感があるかもね」