課長のケーキは甘い包囲網

「えっとですね、この部屋はすでに何もないんです。引越準備中で……今、そっちに行きますから待っていて下さい」

 私はそう言うと、急いで窓を閉めて、鞄を持つと外へ出た。坂田先輩はアパートの前に立っていた。何故スーツ?ああ一応御曹司だから?まあ、いいや。少し太ったというのは本当だった。メガネも掛けていて誰だかこれじゃわからないよ。

 私は、Tシャツにジーンズという、すごい軽装。今日はただひたすら、部屋の片付けのために来たから、すごい不釣り合いな私達。

「えっと、あのですね、もしかして私に会うためわざわざ長野から来られました?」

「そうだよ」

「……いなかったらどうする気だったんです?今日は平日ですよ。たまたま午後半休でいましたけど」

「最初、会社に連絡した。そしたら午後半休だと言われて、こっちに来たんだ。良かったよ、こっちにいてくれて……」

「まさか、お父さんが連絡先を教えたんですか?」

「そうだよ。一応話は聞いたけど、一方的すぎる。本人と直接話さないと納得できないからと伝えたら、教えてくれた」
< 223 / 292 >

この作品をシェア

pagetop