課長のケーキは甘い包囲網
「坂田先輩。父がキチンと話をしていなかったようで、気を持たせてしまったならすみません。私が最初からお断りしておけばこんなことになりませんでしたね。申し訳ありません」
とりあえず、頭を下げた。相手の話をする以前の問題だ。
「あのさ、うちのホテルのレストランがある上の階に、君のところの料亭を入れようという話が出ていたんだ。のれん分けだよ。本店とは別に、ホテル内にも店を出す。最初はお兄さんでも、お弟子さんでもいい。そういう話があったんだ。もちろん、君との結婚も含めてだよ」
やっぱり。お兄ちゃんが危惧していたとおりだった。でも、先日お父さんは考えさせてくれと言ってあると話していた。お兄ちゃんの話を聞いてそれも断ったはずじゃなかったの?
「父はお断りしてくれると私には言ってましたが……」
「時節柄、一時期お客様を取れないときがあったせいで、結構大変だと聞いていた。だから、ホテルに店を出すことも以前お会いしたときは割と今までになく乗り気だったように見えたよ。君を長野に戻したがっていたしね、お父さん。やはり手元に女の子は置いておきたいと言ってたよ」