課長のケーキは甘い包囲網

「そうなんだ。じゃあお兄ちゃんが義理だけど兄弟になれるならいいね。気が合うのも良かった」

「とにかく、あとはその御曹司が折れてくれれば万々歳なんだが……」

 翌週。兄から連絡があった。

「いや、あの御曹司はちょっとだめだな。俺と親父で支配人と御曹司に会ってきた。親父は御曹司と話した瞬間に呆れたんだろう。急に強気になった。申し訳ないが娘は好きな人とすでに同棲していると支配人に言って、頭を下げて縁談だけはすぐに断ったよ」

 どうやら、坂田先輩が父親と一緒にお父さんを丸め込んで結婚を決めようと会ったみたいだが、うまく縁談を断ってくれたようだ。お父さんはお兄ちゃんを連れて行って春以降の構想を伝えたそうだ。もちろん、誠司さんと菓子のコラボには関係があることも伝えたらしい。

 支配人は私の交際相手について詳しく聞いていなかったらしく、驚いて息子をなだめたそうだ。支配人は元から実家に出店してもらえるなら、息子の結婚相手は誰でもよかったらしい。当たり前だ。もっとふさわしい家柄のお嬢さんがいるはずだ。

 お父さんが支配人と会って、一年に一度の出店という案で了解をしてもらった。新しい菓子などの販売も乗り気だったそうで、こちらがうまくいけばその話になりそうだ。

 要するに、私の縁談は正式になくなったのだった。

< 242 / 292 >

この作品をシェア

pagetop