課長のケーキは甘い包囲網

 課長が小さな声で困ったような顔をした。実は最近うちの菓子の売れ行きが悪いと営業から聞いた。新しい商品が少ないこともあるようだ。

 やはり、開発する人に有能な人がいないと菓子会社は未来がない。有紀さんは別なところであんな美味しいケーキを作ってる。人材流出じゃん。

「田崎さん、お茶入れとかの仕事、他の先輩女子で一緒に分担するよ。随分やるのが遅くなったけど、これはそうすべきだね」

 伏見さんが言う。

「確かにそうです。ごめんね、田崎さん。やらせっぱなしで二年間……」

「いいえ、お気持ちだけでも嬉しいです。ありがとうございます」

「それならなおさら、田崎には時間が出来るようになるな。きちんと成長して、来年入らない新人の分もここに貢献しろよ」

「遺言ですか、それ?」

 私がじろりと睨んで課長に言うと、ニヤリと笑い返された。

「そうだな。そう思ったらやる気が出てくるか?」
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