課長のケーキは甘い包囲網
「お前、人事もう四年目だよな。澄川が辞めてからそんなになるのか……」
「……」
「ああ、すまん。じゃあな、そうだ出張旅費のことで来たんだ。担当は?」
「ああ、桜井だ」
そう言うと、春日は桜井のほうへ向かって行った。有紀が辞めてからそうか、四年になるのか。有紀はうちで商品開発を担当していた。彼女と俺は製菓専門学校の同級生だった。
彼女はとても才能のあるパティシエだった。有紀と俺は学生時代ライバル兼悪友だったが、入社してしばらくしてから恋人になった。
彼女の開発した商品は俺も一緒に手伝って作った。四年前、試作商品を作った。それを食べた客の苦情が原因で彼女は会社を辞めた。俺と彼女の交際もそこで終わった。
実は苦情の客の標的は本当は俺だったと半年後課長から調査結果を教えられた。それ以降、俺は精神的ショックでケーキが作れなくなった。春日は、精神的に不安定になった当時の俺を、とても心配してくれていた。