課長のケーキは甘い包囲網

 一口もらって、ほっぺを押さえた。

「はー、美味しいです!いちじくもそうでしたけど、生の果物を感じられて素敵です」

「そう?喜んでもらえて嬉しいわ。いちじくはちょっと大変だったんだけど、そちらで作ったフルーツケーキと同じパウンドケーキなの。両方とも通じるものがあってね。だから誠司にあげたのよ」

「実は私、あのフルーツのパウンドケーキが学生時代から大好きで、この会社に入ったんです」

「まあ、そうなの?それは嬉しいわ。あのフルーツケーキは誠司と試作しながら作り上げたものなのよ。あなたと誠司を繋いだケーキだなんてすごい赤い糸ね」

「え?」

「隠さなくてもいいわよ。春日君からふたりは同棲しているって聞いてる」

「……あ、そ、そうですね」

 有紀さんはにっこり笑った。

「良かった。誠司が幸せになってくれて……私とは恋人というより、喧嘩友達みたいな関係だった。同じ仕事でライバルだったし、恋人としてやっていくのは難しいと感じていたの」
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