課長のケーキは甘い包囲網

 お客様を覚えるのは得意。多分初めてだ。彼がイケメンなのは間違いない。するとイケメンと言われ慣れているんだろう、そのことには何も触れず、彼はニヤッと笑うとうなずいた。

「そうだね。昼間は初めて来たよ。夜に来たことはある。最近越してきたんだ。駅の近くに出来たマンション。あそこにね」

 入り口から見える高層マンションを指さしている。ああ、あのすごく立派なマンションか……エントランスロビーのところを来るときに通りがかるからよく見るけど、とても高級感がある。

 この人すごいところに住んでるんだな。お金持ちなのかな?

「だからね、これから来ることがあるかもしれないからよろしくね」

「はい、こちらこそ。今日は本当にありがとうございました」

 そう言いながら、彼の出したおにぎりやお茶などを会計する。すると後ろから店長がカボチャプリンを出してきた。彼に申し訳なさそうに頭を下げながら言った。

「……先ほどは従業員を助けて頂きありがとうございました。こちら、気持ちばかりですがお礼です。よかったらどうぞ」

 そんな店長を見て、彼は鮮やかに笑った。

「いや。じゃあ、お言葉に甘えます。ごちそうさまです」

「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
< 3 / 292 >

この作品をシェア

pagetop