課長のケーキは甘い包囲網

「本当にすみませんでした」

 研修から戻ってきた桜井さんに謝ると、彼女は私をじっと見つめて言った。

「そうね。いつかやるかもしれないと思っていた。私がいないこともあって、発見が遅れてしまったのは申し訳なかったけど、伏見先輩にも叱られたって聞いているから私からはひと言だけ。これからは何かやる前に確認しようね」

「……はい」

「今日はせっかくの歓迎会だし、楽しもう。ね?」

 私の暗い顔をのぞき込んで言う。桜井さんは真面目だからこういうミスは今まで一度もなかったと六年目の伏見さんに嫌みたらしく言われた。伏見さんは桜井さんの指導員だった人だ。

 実はコンビニに入ってすぐの時もやらかした。発注ミスだ。あのときはやり過ぎて給料から引かれてしまった。普通なら辞める人もいると嫌みを言われたが、応援してくれている母や兄に心配かけたくなくて、踏ん張った。

 あのときも、何かやる前に確認しようと思ったのに、またすぐに忘れて繰り返す。私って本当にダメダメなんだ。

 歓迎会の席は、新人は部長と課長の間に座らされる。私は課長の横。武田君は部長の横だ。
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