課長のケーキは甘い包囲網

  そう言って、課長がこちらをじろりと見た。確かに怖い。そろそろお開きにしようと部長が言うので挨拶をして終わった。皆、最後の挨拶でこの間のことを謝った私を拍手で大丈夫だと励ましてくれた。嬉しかった。

 その日は、翌日も会社だったので一次会でお開きになった。沢島課長と私は、最寄り駅が同じなので一緒に帰った。

「そう言えば、田崎はひとり暮らしなんだろ?実家料亭って言ってたし、お前も料理得意なのか?」

 聞かれたくない質問だった。

「……私、料理はからきし出来ません。父や板前さん、兄も料理得意なので、賄いをもらって食べていて、自分で作ることはほとんどありませんでした。家では一応母が料理をするんですが、私は何も……」

「お前。もしかして、すごく不器用とかまさかそういうことじゃないだろうな?」

「えっと……否定できないところもあります。どうしてこんな不器用な娘が俺の子みたいに父から言われたことがあります」

「それはひどいな。父親とはうまくいってないのか?」

「お父さんは近所のホテルの御曹司との縁談をもらってきて私に勧めてくるんです。今すぐじゃないけれど、いずれって言って。嫌なのに断ってくれないから……」
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