課長のケーキは甘い包囲網
そうなんだけど、モテない私にはなかなかご縁がありません。言ってもしょうがないから、ため息ひとつ落とした。
「あの、課長」
「なんだ?」
「課長はどうして私がうちのフルーツパウンドケーキを好きなの知っていたんですか?もしかして、駅前の店の人に聞いたことがあったとか?」
「まあ、そんなところかな。秘密だ」
課長は同じ駅前のマンションに住んでいるようで、駅から私のアパートまで送ってやるといってくれてついてきた。
すると結構遠くて、電灯もなく、人通りがほとんどないことに驚いている。
「田崎。お前、引っ越した方がいいかもしれない。遅くなって帰るとき怖くないのか?」
「実は怖いです。一度、コンビニの夜のシフトで家まで男のお客さんに追いかけられたことがあったんです。だからそれ以降、朝から夕方までのシフトに変更しました。でも入社してから帰りが遅いときもあるから、たまに怖いんです。そういうときは走って帰ります。私、逃げ足速いんですよ」