課長のケーキは甘い包囲網

「……わかりました。送っていただきありがとうございました。おやすみなさい」

 すると、頭を撫でてくれた。

「ああ、あくびまでして子供はおねむだな。お疲れ」

 そう言って、私が入るのをじっと見ている。入る前に手を振ると、振り返してくれた。家に入って窓から見ると、私の方を見ながら駅へ帰っていくのが見えた。

 こうやって見ると課長ってやっぱり長身でイケメン。課長って怖いと思われているから、イケメンなのに恋人いないらしいと桜井さんが言っていた。部下の私を心配して、家にしばらくおいてくれるなんて、やっぱり恋人いないんだなと思った。

 私自身は上京するまで兄と一緒に暮らしていたし、課長と同じような年齢の男性に対しておびえがなかった。

 課長はただの上司で異性として意識することは絶対にない。それ以上に彼が自分を女性として意識することも、絶対にあり得ないとわかっていた。私は美人じゃないし、女子力ゼロ。料理も、家事もからきしできない。知った男性は大抵驚く。

 今思えば馬鹿なのだが、課長から提案されたことをそれくらい軽く考えていた。

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