課長のケーキは甘い包囲網

 課長もこんな女子力ゼロ女、きっと妹にもしたくないんだろう。私はここ最近ずっと考えていたことを、勇気を出して口にした。

「……課長。ひとつお願いがあります」

「なんだ?」

「今月中に出て行けるように家を捜しますが、それまでに時間があるときでいいので料理を教えてもらえませんか?」

「……はあ?」

「家では怖くて誰にも言えなかったんです。習いに行くと言ったら料理学校に入れられそうだし。もしよろしければ授業料もお支払いしますので、教えて頂けませんか?基礎でいいんです」

「どうして急に?」

「最悪あの縁談が決まったとして、料亭の娘がこんなに料理できない女子力ゼロって知られたら店のためにもならないような気がしていて……」
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