課長のケーキは甘い包囲網

「お茶の入れ方もそうだが、これは会社でも役に立つ。これから、そうやって入れてみろ。格段に味が違ってくる。茶葉の値段のせいにするなよ。ほら、お湯を入れて急須を振り回すな」

「この方が早く濃く出るから……」

「お茶やコーヒー、紅茶も香りが逃げるような入れ方はだめだぞ」

「はあ、なるほど……聞いたことがあったけど、結局実践しないと身につきませんね」

「当たり前だ」

 そう言われて、課長の長い指が急須を持ち上げているところをじいっと見た。

 コーヒーも細い口のポットから入れていく。高さが低すぎるといって後ろからポットを一緒に持ってくれた。

 手を握られて緊張する。後ろに課長の身体があって覆われているみたい。

「よし。やってみろ」

 緊張して息を止めていたので、手が震えて少しお湯がこぼれて左指にかかってしまった。

「馬鹿!やけどしていないか?」
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