聖女がいらないなら、その聖女をボクの弟のお嫁さんにもらいます。そして王国は潰れ、ボクたちは幸せになりました、とさ。
ヨシュア・ヨーギランス・アシュカルテ
体格はそんなに良くないが、父親譲りで背が高く、姉より上のような外形の彼の性格は引っ込み思案の引きこもり。
そんなヨシュアが憧れていたのはアストリア王国で聖女をしているエステリアの存在。
やっと会えたと思ったら長年憧れ&こじらせた初恋が同時に襲い掛かり、現在も性格も治らず。
その代わり念願のエステリアと婚約までこぎつける事が出来たので、今一番幸せ者だと信じている男だ。
「ね、ねぇさん……これ、頼まれておいた資料だけど……ああ、おはよう、エステリア、様」
「おはようございますヨシュア。いい加減、エステリアと呼び巣でで読んでくれてもいいのに……それか、エスかリアとも」
「あああああああ!そ、そんなの無理だよぉぉ!だ、だって、憧れの聖女様が僕の婚約者なんてぇ……」
「現実を受け入れろ、弟よ」
ヨシュアは未だにエステリアと婚約したと言う真実を信じていない。
このような性格だからこそ、いつか暴走してしまいには拗らせた結果、エステリアを監禁してしまうのではないだろうかと言う重い考えが浮かんでくる――リュシアはそれだけは阻止したかった。
持ってきてもらった資料に手を伸ばし、菓子を口の中に入れながら動かし、エステリアはヨシュアが持ってきた資料をジッと見つめるようにしながらヨシュアに視線を向けると、恥ずかしそうな顔をしながら答える。
「あ、ああ……こ、これは、その、と、父さんから頼まれた仕事なんだけど……ぼ、僕、長年部屋に籠りっぱなしだったから、わからないところもあって、ね、姉さんに教えてもらってるの」
「大変ですね、次期魔王様は」
「……エステリア様をお嫁さんにするなら、僕は魔王にだってなってやって、そんでもってアストリア王国の奴らを見返してやろうと思って」
「……ヨシュア」
「はいはい、お熱い事で……それにヨシュア。アストリア王国は後半年もしないで滅亡するから大丈夫。エステリアの結界が既にボロボロらしいからね」
「……」
アストリア王国はエステリアを偽聖女として追放しようとしたところであり、竜魔王も、そしてリュシアたちも、あの国には既に未来がないと知っている。
彼女が祈りを捧げ、魔力を注ぎ、聖女の光魔法の力で結界を作った事で魔物が出入りする事のない、平和な国を作ったのだから。
今でもあのバカ王子であるオスカーの顔が忘れられないでいるリュシアだった。
しかし、エステリアは少し顔色が悪い。
祖国がそのような状態になってしまったのだから、その顔をするのは無理もないと考えたリュシアは笑みを見せながら答える。
「大丈夫だよエステリア。君に家族の父親はこちらに移住する予定でもある。それに、君を優しくしてくれた人たちだって手続き済みだ」
「……ありがとう、リュシア」
「ボクと君は友達なんだから遠慮はいらないよ……でも、妹であるサシャは助けるつもりはないからそれは忘れないで」
「……ええ、わかっているわ」
サシャ――彼女はエステリアの妹であり、彼女もエステリアを貶めようとした相手でもある。
現在彼女が一応聖女として国の役目を務めているらしいが、彼女はエステリア以上の力もないし、そもそも光魔法ではなく、闇魔法の使い手なのだから結界だって作れる事はないだろう。
リュシアは友人の妹だからとて、彼女を貶めようとする身内にも容赦する事なく、静かに水分を補給する。
「それより姉さん、その国に行くなら『彼』にも会うんでしょう。すごく姉さんの事慕ってるじゃん」
「……うーん、正直会いたくないかなー。『奴』に会うと、まず動きにくくなる……」
「でも、良い人だと思うし、いざという時に頼っちゃったら?」
「うーん……」
「あのリュシア、ヨシュア、『彼』って、誰ですか?」
エステリアにとって獣王が収めていく国は初めてなのだ。
リュシアが悩むような事でもあるのだろうかと思いながら首をかしげていると、新しい紅茶を持ってきてくれたリュシアの従僕――リューが静かに息を吐きながらエステリアに向けて答える。
「獣王が収めてくる国には二人の息子と一人の娘が居ます。その一人がアリーシャ様……アリーシャ様はとても人懐っこい性格なのですが、長男がある意味問題児なのです」
「え?」
「長男の名前は『カルア』」
その名を口にすると同時に、リューの表情は不機嫌顔になる。
「リュシア様に求婚している獣王の息子です」
趣味が良いですよね、と付け加えながら、リューは持っていたマグカップを握りしめ潰そうとしている姿を、エステリアは見逃さなかったのである。
体格はそんなに良くないが、父親譲りで背が高く、姉より上のような外形の彼の性格は引っ込み思案の引きこもり。
そんなヨシュアが憧れていたのはアストリア王国で聖女をしているエステリアの存在。
やっと会えたと思ったら長年憧れ&こじらせた初恋が同時に襲い掛かり、現在も性格も治らず。
その代わり念願のエステリアと婚約までこぎつける事が出来たので、今一番幸せ者だと信じている男だ。
「ね、ねぇさん……これ、頼まれておいた資料だけど……ああ、おはよう、エステリア、様」
「おはようございますヨシュア。いい加減、エステリアと呼び巣でで読んでくれてもいいのに……それか、エスかリアとも」
「あああああああ!そ、そんなの無理だよぉぉ!だ、だって、憧れの聖女様が僕の婚約者なんてぇ……」
「現実を受け入れろ、弟よ」
ヨシュアは未だにエステリアと婚約したと言う真実を信じていない。
このような性格だからこそ、いつか暴走してしまいには拗らせた結果、エステリアを監禁してしまうのではないだろうかと言う重い考えが浮かんでくる――リュシアはそれだけは阻止したかった。
持ってきてもらった資料に手を伸ばし、菓子を口の中に入れながら動かし、エステリアはヨシュアが持ってきた資料をジッと見つめるようにしながらヨシュアに視線を向けると、恥ずかしそうな顔をしながら答える。
「あ、ああ……こ、これは、その、と、父さんから頼まれた仕事なんだけど……ぼ、僕、長年部屋に籠りっぱなしだったから、わからないところもあって、ね、姉さんに教えてもらってるの」
「大変ですね、次期魔王様は」
「……エステリア様をお嫁さんにするなら、僕は魔王にだってなってやって、そんでもってアストリア王国の奴らを見返してやろうと思って」
「……ヨシュア」
「はいはい、お熱い事で……それにヨシュア。アストリア王国は後半年もしないで滅亡するから大丈夫。エステリアの結界が既にボロボロらしいからね」
「……」
アストリア王国はエステリアを偽聖女として追放しようとしたところであり、竜魔王も、そしてリュシアたちも、あの国には既に未来がないと知っている。
彼女が祈りを捧げ、魔力を注ぎ、聖女の光魔法の力で結界を作った事で魔物が出入りする事のない、平和な国を作ったのだから。
今でもあのバカ王子であるオスカーの顔が忘れられないでいるリュシアだった。
しかし、エステリアは少し顔色が悪い。
祖国がそのような状態になってしまったのだから、その顔をするのは無理もないと考えたリュシアは笑みを見せながら答える。
「大丈夫だよエステリア。君に家族の父親はこちらに移住する予定でもある。それに、君を優しくしてくれた人たちだって手続き済みだ」
「……ありがとう、リュシア」
「ボクと君は友達なんだから遠慮はいらないよ……でも、妹であるサシャは助けるつもりはないからそれは忘れないで」
「……ええ、わかっているわ」
サシャ――彼女はエステリアの妹であり、彼女もエステリアを貶めようとした相手でもある。
現在彼女が一応聖女として国の役目を務めているらしいが、彼女はエステリア以上の力もないし、そもそも光魔法ではなく、闇魔法の使い手なのだから結界だって作れる事はないだろう。
リュシアは友人の妹だからとて、彼女を貶めようとする身内にも容赦する事なく、静かに水分を補給する。
「それより姉さん、その国に行くなら『彼』にも会うんでしょう。すごく姉さんの事慕ってるじゃん」
「……うーん、正直会いたくないかなー。『奴』に会うと、まず動きにくくなる……」
「でも、良い人だと思うし、いざという時に頼っちゃったら?」
「うーん……」
「あのリュシア、ヨシュア、『彼』って、誰ですか?」
エステリアにとって獣王が収めていく国は初めてなのだ。
リュシアが悩むような事でもあるのだろうかと思いながら首をかしげていると、新しい紅茶を持ってきてくれたリュシアの従僕――リューが静かに息を吐きながらエステリアに向けて答える。
「獣王が収めてくる国には二人の息子と一人の娘が居ます。その一人がアリーシャ様……アリーシャ様はとても人懐っこい性格なのですが、長男がある意味問題児なのです」
「え?」
「長男の名前は『カルア』」
その名を口にすると同時に、リューの表情は不機嫌顔になる。
「リュシア様に求婚している獣王の息子です」
趣味が良いですよね、と付け加えながら、リューは持っていたマグカップを握りしめ潰そうとしている姿を、エステリアは見逃さなかったのである。