聖女がいらないなら、その聖女をボクの弟のお嫁さんにもらいます。そして王国は潰れ、ボクたちは幸せになりました、とさ。
▽ ▽ ▽
「戻らなくてよかったみたいですね」
「いや、戻ってリュー。これからひとっとびで帰って父さんに報告しないといけないから。アストリア王国の事で……これ以上突っ込むのもめんどくさいからあとは父さんに任せる」
眠そうにしながら答えるリュシアは身体を軽く伸ばしながら従者であるリューに視線を向けると、リューは静かに頷いた後、来ている服のシャツを脱ぎ始める。
「脱ぐならあっちの草むらでやってくれ。ボクはともかく、一応令嬢がいるから」
「……了解しました、リュシア様」
服を脱ぎ始めているリューを近くの草むらに追いやった後、今度はエステリアに視線を向けると、エステリアとヨシュアが二人で話はじめている姿を目にする。
少し恥ずかしそうにしながらも、何とか二人で会話が出来ているように見えて、リュシアも少し安堵しながら身体を伸ばす。
これから、と言う事を考えなければならないのだ。
(……一応、ボクの家は竜魔王……魔王と聖女かー、父さん怒るかなー……)
幼い頃、死んだ母親からよく勇者と魔王の話をされた事がある。御伽話だったのだが、リュシアも、そしてヨシュアもその話を幼い頃はよく信じていた。
最終的には勇者にやられてしまった魔王――その魔王は実は父親なのだと聞いた時、二人は泣きながら父親に抱き着いて半日離れなかった、と言う事があった。
勇者の中には聖女と言う存在も居た。
聖女は光魔法を操り、人々を癒し、幸せにしたと言う事。しかし、リュシアたち竜魔王の一族は主に闇魔法を好む存在であり、つまり対たる存在なのである。
当然、父親である竜魔王も光魔法は嫌いらしく。
「……」
しかし、エステリアとヨシュアが楽しそうに会話をしている姿を見てしまうと、何も言えなくなってしまう。現にヨシュアにとって、エステリアと言う存在は、美しい、清らかな聖女と言う事もあり、憧れの存在なのだ。今、そんな憧れの存在と会話している事が嬉しいのか、楽しそうに話している。
姉として、そんな二人を引きはがす事は出来ないし、そもそもリュシアがエステリアを誘ったのには理由がある。
その為には弟のヨシュアと仲良くしていただかないといけない。
「……エステリア」
「あ、は、はい!何ですか、リュシア様」
「リュシアで良いよ。確かにボクは君にとって年上だけど、成長しない身体だからねぇ、気にしないで」
「は、はぁ……では、リュシア。何でしょう?」
「君にはこれからボクたちの国に来てもらうんだけど……もしかしたら一部から歓迎されないかもしれない。それでも、連れてって良いかな?」
「……覚悟の上です。もはやここに私の居場所などありませんから」
「それなら良いんだけど……あ、君を連れていくのにはね、エステリア」
「はい?」
エステリアは一体何を言われるのだろうと内心緊張していた。
心臓の音がもしかしたら聞こえているのかもしれないと思うと、安心出来ない。心臓をドキドキさせながら、エステリアはリュシアに目を向けると、彼女はそのまま弟の隣に立ち、彼の手を握って答えた。
信じられない事を。
「弟、ヨシュアと結婚して夫婦になってもらいたいんだけど、良い?」
「「……え?」」
リュシアは笑顔でそのように答え、エステリアも、そして何故かヨシュアも思わず間抜けな顔を見せながらエステリアと一緒に驚いていた。
そんな二人の間抜けな顔を見られた事で、リュシアは再度、嬉しそうに笑った。
『――リュシア様、準備完了し……何を言ったのですか、リュシア様?』
竜の姿になったリューはそのままリュシアたちが居た場所に向かったのだが、そこにはヨシュアが泡を吹いてその場に崩れ落ちる姿と、固まったまま動かないエステリアの姿、そして流石にまずかったと思いながら青ざめた顔をしながらリューに視線を向けているリュシアの姿があった。
「ど、どうしよう……なんか、ヨシュアが壊れたッ!?」
『……だから何を言ったんですかリュシア様。エステリア様も俺の姿を見ても何も言わないし。普通だったら驚くのに、それ以上の事言ったんでしょう?』
少し慌てる素振りを見せている主人に対し、リューは静かに、深くため息を吐いた。
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