スロウモーション・ラブ
超恋愛脳彼氏?
川沿いを埋める薄紅桜が散りかけている。
スマホの中には1年近く動きを見せない私の恋。
もういっそ捨ててしまいたくて、画面に「すき」と入れてみる。
(先輩は、きっと……)
送る前に挫け、結局その二文字は削除した。
こんな行動を何度繰り返したかわからない。
もしも幼なじみが知ったら「簡単に諦めるな」となんて言われそうだ。
そんなことを考えながら、とぼとぼと歩いた。
それは、高校2年の4月。
明日が始業式というタイミングだった。
母に頼まれスーパーまで行った帰り、偶然鉢合わせたのは見慣れた制服を纏った幼なじみ。
「おー、はなび」
「りく」
私を"はなび"と名前で呼ぶ彼は、私の1つ年下で今日から同じ高校の生徒になった「明瀬りく」だ。
相変わらずイケメンよろしくやっているようで、なんて言うとポコンと頭を叩かれた。
とっくの昔に見慣れた甘いマスクを見ながら隣へ並んだ。
どちらからともなく歩き始める帰宅路。
柔らかな春の陽気が私たちの足下を包む。
「まさか高校まで同じなんてね」
「今さら?はなびと同じになりそうって伝えてたじゃん」
「制服姿を見て改めて思ったってことですよー」
取り留めのない会話。幼なじみの空気感は一言でいえば「楽」だ。
男女だからと距離が開いてしまうこともなく、長年それなりに仲がいい。
恋愛と違い、幼なじみの関係は安全が約束されている。
帰路を進みながら、りくの整った横顔を見る。
少し疲れた表情をした彼に、その原因を聞いてみた。
「何人に告られた?」
「いや、今日入学式だろ」
「で、何人?」
「……3人」
りくは、げっそりとしながら答えた。これだけではないなと悟った私は、もうひとつ質問を重ねる。
「連絡先聞かれたのは?」
「7、いや、8かも」
中学の頃国宝級だとかなんだとか校内で噂されていたりくの容姿。
高校へ行ってもこうなることはわかっていたけれど、うんざりとした姿には「お疲れさま」としか言えない。
「モテるね」なんて言葉はとっくに聞き飽きただろうし「うらやましい」なんて言葉はりくにとって嫌味でしかないだろう。
「みんな中身知らないからな〜」と茶化すと「どういうことだアホ」と余計な単語がくっついてきた。
そんなりくが、ついにモテすぎて頭がおかしくなったのかと思ったのは、私の家の前に到着した時だった。
「はなびを、俺の彼女ってことにするのはどう?」
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