スロウモーション・ラブ
突然の結末
事故チュー事件から数日。
恋愛ごっこ以外の私たちの時間にはぎこちない空気が流れている。
お互い、あのキスの話には一度も触れていない。
時間が経つほどに触れられなくなっていく。
キス自体が幻だったのではないかと思えるほどに。
だけど、初めての感触は鮮明に残り、ことある事に脳内で再生される。
おかげで、図書委員の仕事をしながらぼーっとしていたようだ。
到達に目の前に新田先輩の顔が現れ、ひゅっと息を詰めてしまった。
「はーなーびーちゃん。心ここに在らずだけど聞いてる?」
「あ、ごめんなさい」
うるさくなった心臓を庇うように一歩距離をとる。
そんな私に先輩はこてんと首を傾げて訊ねる。
「彼氏となんかあった?」
「何もないですよ」
あっさりと声にされた"彼氏"に少し気落ちしながらも、気取られないようニコッと口端を上げて答えた。
すると、先輩の手が伸びてきて私の頬をむにっと摘む。
「嘘つき」
触れたところから体温が上がる。
「何もないです」と答えた私から、先輩の手が離れていく。
新田先輩は、悩んでいる人や元気がない人に近づいてはさりげなく励ます人。
先輩にトクトクと鼓動を揺らしながらも、消化できない唇の感触が蘇る。
(事故だってば……)
言い聞かせながら、ひたすら本を棚に戻す作業を続けた。