スロウモーション・ラブ
すべての本を戻し終えた頃、新田先輩は再び私へ同じ質問をした。
「やっぱり何かあったでしょ」
「だから、何もないですって」
視線を避けるようにその場を離れようとした私を先輩の声が止める。
「じゃあ、聞き方変える」
ふと振り返ると、先輩の瞳とまっすぐ視線がつながった。
逸らしたくなるけれど、そうさせてくれないのは、質問内容が驚くものだったから。
「彼氏もどきくんと何かあったでしょ?」
もどきって? と、声にできたかわからない。
返事ができない私へ、先輩が重ねる。
「はなびちゃんて、本当はりくくんと付き合ってないでしょ」
「…………」
「あ、びっくりしてる」
何か言おうとするも、追いつかない。カッと顔が熱くなるのを感じた。
「……っ」
りくとのバカップル演技が見破られたことが恥ずかしくて、それ以上に、先輩に嫉妬してもらえないか、なんて思っていた自分が情けなさすぎて。
赤面しながら固まる私を見た先輩がへらりと笑う。
「なんとなく、そうじゃないかと思ってたんだけど。今の表情で確信した」
「あ」
「はなびちゃん、わかりやすいもんね」
「え」
恥ずかしいやら、情けないやら、虚しいやら、ごちゃ混ぜになった心。
だけど、爆発してしまいそうな私の心を一気に鎮めたのも、先輩だった。
「はなびちゃんて、俺のこと好きでしょ」
何を言われたのか、理解に少し時間がかかった。
だめだ、だめだ、と思いながら、口をついて出てしまう言葉。
「っ、もし、そうだとしたら……」
聞いちゃだめだとわかっていたのに、口から出た言葉は帰らない。
心音がうるさい。壊れそうなほどに。
だけど、その答えは先輩の表情ひとつで先にわかってしまった。
「ん〜、はなびちゃん可愛いし気に入ってるけど……彼女にするのは違うかなぁ」
「……そう、ですか」
聞き分けのいいふりをしたけれど、本当はずっと前からわかっていた。
もしも先輩にこの気持ちが伝わってしまったら、受け入れてはもらえないことを。
「ごめんね」
「……ううん」
謝罪の言葉が胸に刺さる。ぶわりと熱いものがこみ上げてくる。
でも、泣くほど頑張ったかな。
(泣けない、泣くな)
言い聞かせながら図書室を出た。
1年間密かに抱いていた私の恋心は、好きだと告げることもなく、プツッと切られてしまった。