スロウモーション・ラブ
りくと私が別れたと噂が広がったのは、それから1週間ほど後だった。
あの謝罪を境にりくと一緒に過ごすことがなくなったのだから仕方ない。
りくは女子たちから告白されるのに忙しいだろう。
私はというと、友だちはもちろん、話したことない他のクラスの人達からも「別れたって本当!?」と質問攻めにされたところ。
返事は決まって「うん」のみ。
眉を寄せ悲しげな表情を浮かべると、それ以上深く突っ込まれることはあまりない。
新田先輩とは委員会の仕事で顔を合わせるけれど、振られて以来微妙な空気が流れている。
あからさまかもしれないけれど、隣のクラスの子に図書室当番の曜日を代わってもらうことにした。
そして、相変わらずなこともある。
「りくくんやっと目が覚めたのかな」
「あの平凡女も釣り合わないって理解したでしょ」
平凡女とは私のことである。
りくの彼女のふりをしていた時も陰で言われていたけれど、ふりをやめても言われ続けるなんて、りくの人気は凄まじい。
言われ慣れたそれに苦笑する。
職員室へ続く廊下を塞いで私の悪口を言い合っている女子達は1年生だけど、隣を通り過ぎる勇気はない。
回り道をして行こうかと踵を返した、その時。
私の隣をすり抜けていった1人の生徒。
思わず目を見張った直後、私の鼓膜が声を拾う。
「それくらいにしてくれる?」
聞き慣れた声はりくのものだ。
悪口大会を開いていた女子達が「りくくん……」と呟き黙る。
「はなびのこと言われるの、あんまりいい気分じゃないから」
りくのイケメンパワーのせいか、女子達は素直に謝った。ほっと息をついた直後、女子の1人が沈黙を破る。
「りくくんは、まだ好きなの?」
「……うん」
りくの答えの意図は、私にはわからない。
「違う」と答えてくれたらこんな悪口は減るかもしれないのにと思いながらも、心音が妙に速度を上げる。
(きっと、演技)
自分へきつく言い聞かせて、結局職員室へは回り道をした。