スロウモーション・ラブ
あたりまえ
「は……、え!?」
教室で大きな声を上げたのは、期末テストの順位表をもらった時だった。
これまでの私の順位はというと、中の上くらい。でも、今回は何かの間違いなんじゃないかというほどに上位だった。
驚く私の周りに集まった友人たちも「カンニングか」なんて失礼なことを言う。
だけど「時間がたっぷりあったから頑張ったの!」と大声を出すと、みんなの表情が一気に憐れみを帯びる。
そう、私は失恋して数週間という設定だ。
みんなの思う私の失恋相手はりくで、実際は新田先輩であるという違いはあるものの、あながち間違ってはいない。
何も考えたくない私はこの数週間、テスト勉強に没頭した。
「私って、やればできる子だったんだ……」
呟く私を友人達が「よしよし」と言って抱きしめる。
イケメンに振られ校内に噂が広まる可哀想な女子として、クラスメイト達は何かと私を不憫に思い甘やかしてくれるのである。
帰り道、とぼとぼとバス停からの道を進む。
りくと別れたことになってからは、一人きりで帰宅している。
同じ学校で同じバス停を利用しているのに、下校時間がぴたりと合う日は少ない。
学校でも学年が違えば、たまにすれ違う程度である。
りくといる時はあまりしていなかったイヤホンを装着して、初夏の風の中を歩く。
長袖シャツももうそろそろ限界だな、と晴れ渡る空を見上げていると。
「あら、はなちゃん」
私を「はなちゃん」と呼ぶのは幼い頃から私を知っている人くらいだ。
イヤホンを取り振り返ると、すらっとした笑顔が素敵な中年女性、りくのお母さんがいた。