スロウモーション・ラブ
「…………ん」
目を覚ますと、体操服を着たまま保健室のベッドに寝ていた。
起き上がろうとすると、浮遊するようなめまいに襲われる。
身体ごと横を向きながらゆっくり起き上がる。
ベッドの淵に座って首や肩を回しながら、幾分か身体が楽になったことを自覚した。
ちょうどチャイムが鳴り、時間を確認しようと立ち上がった。
しかし──。
「……っ、さい、あく」
寝ていたベッドを見て思わず声に出すと、シャッとカーテンが開けられた。
「はなび、起きた?体調どう?痛いとこは?水飲む?着替える?大丈夫?」
「え、あ……りく……」
心配そうなりくの矢継ぎ早の質問に追いつけず、しどろもどろになる。
だけど、今起こったことを知られたくなくて、半ばパニックのまま「大丈夫だから出てて」なんて言ってしまう。
いや、お礼を言わなきゃ。わかってる。わかってるけど──、今すぐトイレ行って、でもベッドを放置できないし……。
ごちゃごちゃと考えていると、りくが私の後ろを見て「あ」と言う。
顔が真っ赤に火を噴いた。
シーツにべったりとついた経血。
さすがにりく相手でも恥ずかしくて、きゅっと手を握りしめて俯く。
泣きたいほどの羞恥に言葉が見つからない。
そんな私に、りくが穏やかに声をかける。
「はなび、とりあえず水飲も」
「でも……」
先にトイレに行きたいと言いかけるも、りくが言葉を重ねる。
「まず水分補給が先」
穏やかな声を出しながらも、今顔を上げたらきっとりくは心配そうな表情をしているんだろう。
この声音が私のためだと気付き、大人しく渡された水を飲む。
何口か飲みペットボトルの蓋を閉めると、りくが私に制服とジャージの上着を渡す。
私が受け取るや否や、りくは「保健の先生呼んでくるから」とそそくさと保健室を出て行った。
私はお礼を言えていないことを心の中に引っ掛けながら、トイレへと急ぐのだった。