スロウモーション・ラブ
知ってた
ソワソワとした気持ちを抱えたまま夏休みに入った。
校内ではりくと私はすでに別れたものとして知られている。
一部ではりくがまだ私を好きという説とその逆の噂も同時に流れてはいるけれど、それも私たちが人前で関わることがないため周りは知る由もない。
私はというと、新田先輩への失恋の痛みはまだ鈍く残るものの癒えてきた気がしている。
振られて以来、委員会で一度挨拶した程度だ。
会わなければ気持ちも冷めていくのかもしれない。
ううん、本当は自分でも少しだけ気づいている。
誰かを思い出す時、決まって新田先輩ばかりだったはずなのに、今は違う。
そんな自分の中の変化についていけず戸惑っている。
蝉がけたたましく鳴く住宅街。
夕方とはいえ暑さは落ち着くこともなく、汗が首元を流れていく。
私の手にはエコバッグ。
近くのスーパーへと買い物に行くところだ。
なんでも、お母さんが急遽1週間ほど祖母の家へ行くらしい。
お父さんはお母さんを送ってから明日には帰ってくるらしいけど、今夜は留守を預かることになってしまった。
勢い余って「いない間の家事は任せて」なんて言ってしまったから、適当な生活をするわけにもいかず、ちゃんと料理もするつもりだ。
近くのスーパーで買い物を終えると、あたりはオレンジに染まっていた。
東の空の裾にはもう夜空が迫っている。
とぼとぼと歩いていると、見慣れた背中を見つけてしまった。
家が近いのだからこういうこともある、けれど……。
どうしようか迷っていると信号で追いついてしまい、そっと声をかける。
「りく」
「お、はなび」
隣に並ぶのは久しぶりだ。
一緒に帰っていたのはたった数週間前のことだというのに、やけに懐かしく感じた。