スロウモーション・ラブ

りくの家に行くと律子さんに歓迎され、3人で夕食を囲んだ。

食器洗いに率先して取り掛かっていると、律子さんは「女の子が家にいるっていいわ」と隣に並ぶ。

さらに、カウンターキッチンの向かいにはりくが立つ。

やたらと手元を見てくるりくに「何」と訊ねる。

「慣れてるなって思って」

りくの言葉に返事をしようとすると、律子さんが先に答える。

「はなちゃんちはママがフルで働いてるものね。日頃からお手伝いしてるんだわ、あんたと違って」

ちくっと言われたりくが苦笑し「シャワー浴びてくる」と逃げる。

この親子のやりとりが私は結構好きだ。


りくの後にシャワーを浴びて2階へ上がると、りくが部屋から顔を出した。

私が寝る部屋はりくの隣の部屋なのだけど、りくが「ちょっと来て」と呼び止める。

「なに?」

「どこかで花火やってるらしい。俺の部屋から見える」

「え、見たい」

目を輝かせた私をりくが部屋へ招き入れる。

部屋に入った途端、"2人きり"の文字が脳裏に浮かんだけれど、花火に視線を向けるりくを見てそっと落ち着かせた。

そう考えてしまったことが恥ずかしい。

りくが窓を開けるとともに、ドンッ、と打ち上げ音が響く。

そして、夜空に光の花が咲いた。


瞳に映った瞬間、私がウダウダ考えていたことはすべてどこかへ行ってしまった。

「綺麗……」

窓辺に寄り、消えてはまた打ち上がる光の粒を見上げる。

名前と同じだからか、私は花火が大好きだ。


花火を眺める私の隣で、りくがぽつりと呟く。

「はなびってさ、」

「ん?」

「結構なんでも1人でできちゃうよね」

「そんなことないよ。つい最近もりくに助けてもらったとこでしょ」

どうして今こんな話しをし始めたのかわからず、りくの顔を伺う。

けれど、りくは空をまっすぐに見ながら言葉を続けた。

「俺と1年しか違わないのに、全然違うみたい」

声音が、表情が、いつものりくとは違って見えて「老けてるってこと?」なんておどけてしまう。

本当は、そういう意味じゃないと分かっているのに。

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