スロウモーション・ラブ
夏風と微熱
夏休みに入ってからは塾の夏期講習と、時々委員会や友達との予定があるのみで、それ以外は9時頃に起きてゴロゴロする生活。
胸がどこか晴れないのは、私にとって壮絶な一学期だったからだろう。
思い出すのは、新田先輩と幼なじみのこと。
ため息をつきながら、今日は夏休みの図書室当番である。
今日は1年生の子と二人で図書カウンターに立つ予定……だったのだけど。
「はなびちゃん久しぶり」
図書室の扉を開けると待っていたのは、どこか困ったような笑みを浮かべた新田先輩だった。
「おはようございます」
敗れた恋のかけらを感じながら、笑みを浮かべる。
自然と笑えているかはわからないけれど、意外にもすんなりと口角が上がった。
(時間が、経ったから)
たった2ヶ月とはいえ、失恋の傷がかさぶたになるには充分な時間だったのかもしれない。
私の態度が以前と変わらなかったからか、新田先輩もホッとした様子に見える。
ぽつぽつと何気ない世間話を重ねながら、人気のない図書室で作業を続けた。
新田先輩と私の間で一つ変わったことといえば、先輩が私の頭に触れなくなったこと。
言葉を交わしながら、笑顔を浮かべながら、唯一の変化に気づいてしまった自分はまだ先輩のことが忘れられていないのかもしれない。
だけど、微かな痛みとは裏腹に、先輩と後輩の変わらない関係という安心感があるような気がした。
「りくくんとは、どう?」
その質問が飛んできたのは、帰り際のことだった。
瞬間的に脳裏を過ったのは、花火の音と、りくの声。
「……っ」
かあっと、急激に顔が熱くなる。