スロウモーション・ラブ
「い、いえ、何も、特に」
しどろもどろになる私を見て、先輩が「ははっ」と声を上げて笑う。
思えば、先輩には見破られてばかりだ。先輩への気持ちも、りくと付き合うフリをしていたことも。
「先輩って、なんで全部わかっちゃうんですか……」
そんなところにキュッと胸が掴まれるのは、浅いだろうか。なんだか、心がもやもやする。
先輩はこてんと首を傾げると、明るい声音で話し出す。
「はなびちゃんて、妹に似てるんだよね」
「妹さん、何歳ですか?」
「3歳」
「さん、さい……」
唖然とする私に、先輩はにこっと笑みを強める。
「だから、つい視線が行くし、構いたくなっちゃうんだよね」
その笑みがなんだかいつもの先輩らしくなくて、不思議に思いながらも「そうですか」と話を収める。
戸締りを確認して最後に図書室のドアへ向かうと、先輩が後ろから私を呼んだ。
「はなびちゃん」
「はい」
振り返ると、先輩がわざとらしく決めポーズをしながら訊ねる。
「俺のこと、今も好き?」
そのポーズに思わずぷっと吹き出した私へ「失礼な」と声が飛ぶ。
(あぁ、こういうところがいいな)
だけど、以前「好きでしょ」と言われた時のように「だったらどうしますか」なんて零れるような言葉は出なかった。
あんなに好きだと言えばよかったと悔やんだのに、今の私は先輩に「好き」と声に出す想いが足りない。
(……早くない?)
恥ずかしくなり、足元を見る。
こんなに簡単に変わる気持ちではなかったはずだ。
確かに恋をしていたのに、もう忘れてしまいそうな自分に罪悪感が芽生える。
もやもやしていたものの輪郭に触れた気がした。