スロウモーション・ラブ

帰りの足取りは行きよりも軽かった。

花火の日以降できていないりくとの勉強会も、これ以上逃げられないなと思う。

律子さんとの約束だから。りくの成績が心配だから。

(そうじゃなくて、たぶん……)

考えの先へ辿り着こうとしたその時、私の家の前に立つ人を見て足を止めた。

りくだ。

どう声をかけたらいいのかわからない。

何度も口を開いては声にならず、口を閉じる。

本当は、彼が来た意味を察しているから。


「あ、はなび」

そうこうしているうちに気付かれてしまった。

りくが私の元へ駆けてくる。

私は逸る心音を抑えるように、ぎゅっとリュックのベルトを握った。

りくは私の目の前へ着くや否や、勢いよく話し始めた。

「さすがにもう気づいてると思うから言うけど」

「ま!待って!」

私の静止に、りくは驚いた様子でぴたりと止まる。


じわじわと夏の太陽が私たちを上から照らしつける。

頬の熱さは真夏のせいだと思ってくれるだろうか。

「……まだ、言わないで」

ずるい心だけど、今そのままの気持ちを伝えなければ後悔する気がした。

だから、言葉を重ねる。

「もう少し待ってほしい……」

「それって、どういう意味」

りくが眉を寄せる。目は真っ直ぐに私を見たまま。

どう思われるか、本当は怖い。それでも、曖昧な心から搾り出すように声にした。


「私の気持ちが育つまで、待ってほしい」


思ったよりもはっきりと口が動き、声と心がリンクする。

声に出したことで、やっと自分の気持ちを掴めた気がした。

< 29 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop