スロウモーション・ラブ
帰りの足取りは行きよりも軽かった。
花火の日以降できていないりくとの勉強会も、これ以上逃げられないなと思う。
律子さんとの約束だから。りくの成績が心配だから。
(そうじゃなくて、たぶん……)
考えの先へ辿り着こうとしたその時、私の家の前に立つ人を見て足を止めた。
りくだ。
どう声をかけたらいいのかわからない。
何度も口を開いては声にならず、口を閉じる。
本当は、彼が来た意味を察しているから。
「あ、はなび」
そうこうしているうちに気付かれてしまった。
りくが私の元へ駆けてくる。
私は逸る心音を抑えるように、ぎゅっとリュックのベルトを握った。
りくは私の目の前へ着くや否や、勢いよく話し始めた。
「さすがにもう気づいてると思うから言うけど」
「ま!待って!」
私の静止に、りくは驚いた様子でぴたりと止まる。
じわじわと夏の太陽が私たちを上から照らしつける。
頬の熱さは真夏のせいだと思ってくれるだろうか。
「……まだ、言わないで」
ずるい心だけど、今そのままの気持ちを伝えなければ後悔する気がした。
だから、言葉を重ねる。
「もう少し待ってほしい……」
「それって、どういう意味」
りくが眉を寄せる。目は真っ直ぐに私を見たまま。
どう思われるか、本当は怖い。それでも、曖昧な心から搾り出すように声にした。
「私の気持ちが育つまで、待ってほしい」
思ったよりもはっきりと口が動き、声と心がリンクする。
声に出したことで、やっと自分の気持ちを掴めた気がした。