スロウモーション・ラブ

りくは首を傾げ、顎に手を当て、また反対方向に首を傾げる。

イケメンもこれでは形無しで、私の口元は自然と弧を描く。

ようやく首の角度が戻ったりくは、恐る恐るといった調子で問いかける。

「少しは俺のこと意識してくれてるってことで合ってる?」

この人は誰もが羨むイケメンなのに、どうしてこんなにも自信がないんだろう。

可愛いと思ってしまえば、負けだ。

「……少しじゃないよ」

「え、」

「す、少しでは、ないと思います……」

だけど、心の底から"好き"と言うには、きっとまだ足りない。

当たり前にそばにいた幼なじみが、好きな人になってしまうかもという怖さもあるから。

「……」

無言の時が流れる間も私たちの視線は繋がったまま。

りくは真剣な顔でゆっくりと頷いた。


「わかった、待つよ」


安心した私はへなへなとしゃがみ込む。

「大丈夫?」と心配して目線を合わせるりくに、私の心は勝手にキュンと甘さを産む。

「ごめんね、ずるいことを言ってる自覚ある」

「それなら俺の方が最初にずるいことしてるし」

思いもよらないことを言ったりくに「え?」と首を傾げる。りくの顔には苦笑いが浮かぶ。

「……付き合うフリ」

「あ」

なるほどと腑に落ちた私と、苦笑いで頭を掻くりく。

「あれはずるいことをしたと思ってる」

私は照れ臭くて「あはは」と意味のない笑いをこぼす。

りくは立ち上がると、私に手を差し伸べる。

おずおずと手を重ねると、りくがぐいっと私を引っ張り上げた。

「でも、謝らない。はなびの気持ちを変えたくてしたことだから」

至近距離で告げられた言葉に、気温のせいではない火照りが私を襲う。

顔を伏せると、耳元でぼそりと低音が囁いた。

「可愛い顔」

「は!?」

大きな声を出して離れた私をりくが笑う。

その顔も、真夏の日差しのせいか林檎のよう。

「もう隠す必要もないし、これからはどんどん言ってくから」


突然私たちの間にやってきた甘い夏風。

心の変化を受け入れてもいいのだと自分を許せたのは、紛れもなく前の恋があったからだ。

心の赴くままに、恋に落ちたい。

胸につかえていたもやもやが晴れた気がした。

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