スロウモーション・ラブ
ゆっくりと

エアコンに冷やされた室内で、涼やかに勉強をするイケメンの横顔。

今日はりくの家で夏休みの宿題中だ。

「はなび、ここ教えて」

ぼーっとりくの顔を眺めていたためバチッと目が合ってしまった。

「え、はい、どこ!?」

慌てて問題に視線を向ける。

すると、くすくすと笑い声が降ってきた。

ちらっと目線を上げると、りくがそれはもう甘い笑みを湛えて頬杖をついている。

「俺のこと見てたの?」

「っ、イケメン攻撃しないで!」

「攻撃してない……」

最近りくの甘い笑顔を見ると頬が熱を持ってしまうからダメだ。

なのに、りくは味を占めたのか会うたびに私を誘惑する。

ちらっと見上げると、またその瞳が甘く細まった。

「はなび、今日も可愛い」

思わずパシッとその手を叩いてしまうも、りくは気にせずに私の顔を覗き込む。

「ねぇ、まだ?」

「ごめん、どこだっけ」

身を乗り出して問題集へと視線を向ける。

しかし、私の目の前に現れたのはりくの整った顔で。

「そうじゃなくて、はなびの気持ちは順調に育ってる?」

「っ、」

突然の話題に身体を引こうとするも、りくがしゅんと子犬のように眉を垂らすから露骨に避けられなくなってしまった。

「……俺、頑張ってるつもりだけど」

最近のりくは、本当にずるい。人が変わったようにあざとさMAXだ。

そして私は、そんなりくに弱い。

「そ、育ってます……」

エアコンがしっかり効いた部屋でパタパタと顔を仰ぐ。

りくは私の返事を聞くとご満悦で「うん、じゃあもっと頑張る」と微笑んだ。


夏休みに入ってからこうして一緒に勉強をしているけれど、あざといアピールも唐突な質問も私は戸惑うばかり。

正直どんな反応をするのが正解なのかわからない。

りくは今"頑張っているところ"で、私は育つのを"待っている"最中。

少しずつ高鳴る気持ちをどこで認めたらいいのか、私はまだ測っている。

たとえば先輩を好きだと心が認めた時は、どんな瞬間だったんだろう。

本当は、手を取ってしまうことが少し怖い。

心は変わると身を持って体験してしまったから。

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