スロウモーション・ラブ

太陽が傾く中、3人で帰路を歩く。

それぞれの手には駄菓子の入ったビニール袋がぶら下がっている。

口の中にはキャンディ。

小学生の頃、りくとよく駄菓子屋の帰りにキャンディを口に入れながら歩いたっけ。

同じことを思い出していたのか、目が合うとお互いにはにかんでしまった。


歩きながら、ようたくんは何かを見つけるたびに楽しそうに話す。

年下のいとこがいない私には新鮮で、コロコロと変わる話題に耳を傾けた。

「へぇ、ようたくんは物知りだね」

「俺ユーチューブで色々見てるから」

「色んな動画あるもんね」

自慢げに話すようたくんが可愛くて相槌を打つと、キラキラとした瞳が私を見上げる。

「俺ユーチューバーになって有名になるから、俺と仲良くしとけばいいことあるよ」

「あはは、じゃあ仲良くしよう」

時折駆けたり足を止めたりするようたくんが危なっかしく思えて手を差し出すと、小さな手は自然と私の手を握った。


「あ、セミの抜け殻」

ようたくんが私の手を引っ張り立ち止まる。

りくの「急に止まったら危ないだろ」という忠告を聞き流したようたくんが、高い塀を指差した。

手の先を見ると、私の背の少し上にセミの抜け殻がある。

「ほんとだ」

取って渡してあげると、ようたくんはキョトンと私を見上げた。

「抜け殻触れるの?」

「うん、触れるよ」

本物を捕まえろと言われたら難しいけど、抜け殻ぐらいなら平気だ。

ようたくんは嬉しそうに自分のTシャツにくっつけながらまた歩き出す。

「うちのクラスの女子は気持ち悪いって騒ぐよ」

「うん、怖い人には怖いかもね」

「りく兄も怖いって」

ようたくんの言葉を聞いて振り返ると、りくがすかさず口を挟む。

「怖いとは言ってない。触りたくないだけ」

そんなりくに追い打ちをかけるようたくん。

「じゃあこの抜け殻りく兄にあげる」

「なんでだよ!」

小1にからかわれる高1を見ながら、思わず声を出して笑ってしまった。

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