スロウモーション・ラブ
「はなびはなび!」
「ん?」
夕食後、片付けを手伝っているとようたくんが私の服をくいっと引っ張る。
振り向くと、その手には手持ち花火のパッケージ。
「花火しよ」
突然の提案に思わず心が躍る。
律子さんに許可をもらい、庭で花火をやることにした。
色とりどりの光が火薬の先から飛び出ていく。
りくとようたくんと一緒に色とりどりの花火を夢中で試した。
ふと、隣に並んだようたくんが問いかける。
「はなびって花火と同じ」
「うん、でも漢字はちがうんだよ。花に太陽の陽って書くの」
「太陽の陽!俺と一緒!」
ようたくんは嬉しそうにはしゃぎ、また新たな花火を取りに行く。
すると、代わりにりくが隣へ並んだ。
「太陽に向かって咲く花のように、悲しいことがあっても乗り越えて笑えますように」
私のアルバムに記された"花陽"の由来をりくが一言一句違わず紡ぐ。
「あれ、話したっけ?」
「昔よくはなびのアルバム見させられたから」
「そうだっけ?」
りくは懐かしむように目を細める。ほんの少し顔を寄せるとようたくんには聞こえない声で囁いた。
「うん。はなびにピッタリだと思ってた」
どういう意味かなんて今さら聞かない。
聞いたらまた私の頬を熱くするような答えが返ってくる気がしたからだ。
花火をほぼ使い終わった頃、ようたくんが目を擦り始めた。
「あれ、陽太くん眠い?」
「うん……寝る」
頭を撫でながら「おやすみ」と声をかけると、ようたくんは眠そうな瞳で私を見上げる。
「はなび、帰っちゃう?」
「うん、でもまた会えるよ」
しゃがんで目線を合わせると、ようたくんがぎゅっと私へ抱きついた。
短い時間だったけれど、ずいぶんと懐かれたようだ。
「ほら、ようた、行くぞ」
りくがようたくんを引き剥がして連れていく。
去り際に耳元で「待ってて」という低音が響いた。
一人になった庭で鼓動が騒ぐ。
もうこれ以上にないほど自分の気持ちを理解していた。