スロウモーション・ラブ
ウッドデッキに腰掛けているとようたくんを部屋へ連れて行ったりくが戻ってきた。
りくは少し間を空けて座る。
この距離がもどかしくて、ほんの少し座る位置を移動した。
「線香花火だけ残ったな。二人でやる?」
「ん、やろっか」
りくに渡された線香花火に火をつけると、小さな橙がぽつりと灯った。
ぱちぱちと繊細な火花が踊る。
「早く落ちた方が負け?」
「ん、こういう時は……」
「「罰ゲーム?」」
声が揃い、思わず顔を見合わせて笑う。
「罰ゲームって言っても」
苦笑していると、りくの持つ花火から橙の雫がぽとりと落ちる。
「あ、落ちた」
「罰ゲーム?」
クスクスと笑いながら冗談で言うと、りくは思いのほか深く考えるような表情になる。
冗談だよ、と言おうとしたけれど、一歩早く声を出したのはりくの方だった。
「今から恥ずかしいことを言います」
「ど、どうぞ……?」
何が始まったのかと見守っていると、りくは膝に乗せた腕に顔置き、上目遣いでこちらを見た。
「さっきまで、ようたにはなびを取られてて、ちょっと寂しかった」
「そ、そう、なの?」
顔が熱い。この間からりくのストレートな言葉にタジタジだ。
りくは「そうなの」と照れた様子で言う。
(あぁ、もう)
ようたくんとは違う意味でりくの可愛さにやられてしまった。
いつの間にか私の線香花火も玉が落ち、私たちの間には夜の薄闇が漂う。
また、二人で繊細な火花を見つめた。
二人きりの夜の帷の中、この時間がずっと続いてほしいと思った。
夏の夜風が線香花火を悪戯に揺らす。
(落ちて──。)
心の声に応えるように、橙の雫が落ちた。