スロウモーション・ラブ
顔を手で覆って何も喋らなくなったりく。
その手の甲に恐る恐る触れると、ようやく涙で濡れた顔を見せてくれた。
思わず微笑むと、りくが顔を近づけて言う。
「キスしていい?」
「そ、それはまだダメ」
泣き顔が今度は拗ねた表情に変わる。
それさえ可愛いと思ったことは胸に隠して、照れ臭さを感じながらも目を合わせた。
「ゆっくり進んでいきたいの……ダメかな?」
「……いい。いいよ。いいけど、」
りくがじっと私を見つめる。
彼は私の手を取ると、そこへ小さくキスをした。
「可愛い聞き方、しないで」
慌てて手を引っ込めようとするけれど、りくは離さないとばかりにぎゅっと握る。
あぁ、幸せだ。幸せで、少し怖い。
「はなび」
りくが私の手をぐいっと引く。
フラッシュバックする映像と同じように、りくの身体にぶつかった。
背中に回る手はあの日のような迷いはなくて、しっかりと私を抱きしめる。
「はなび、ずっと俺のそばにいて」
気持ちは変わるもので"ずっと"なんてあるかもわからない。
私の気持ちは変わったからこそ、今りくを向いている。
幼なじみという不変から、恋人という変化のあるものになってしまうことに不安はある。
(だけど……、)
今確かに私は、この人のそばにいたいと思う。
未来を恐れるよりも、この瞬間に彼の手を取りたい。
ぎゅっと甘く痺れる胸が私を動かす。
りくの腕に応えるように、そっと彼の背中に手を回し伝えた。
「うん、そばにいる」
りくが一段と強く私を抱きしめる。
真夏の夜の暑さの中、触れ合うところからじわりと汗が滲む。
それでも離れがたくて、私たちはしばらく身体を寄せ合い静かな時間を過ごした。
なかなか受け入れられなかった変化だけど、迷い悩む期間があったからこそ、この想いが本物だと素直に思えた。
きっとこれからも、ゆっくりと恋に落ちていく。
この瞬間もそうであるように、幼なじみへ落ちていく。
変わらないものはないと知りつつも、願う。
どうか、私たちの恋が、ずっと続きますように。