スロウモーション・ラブ
【Ep】りくのゆめ
はなびと両思いになった翌日、目が覚めた俺は自分の頬をぺちぺちと叩いた。
「……現実?」
長年片思いを続けてきた俺なら妄想がついに幻覚になってしまってもおかしくない。
横になったままぼーっとしていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「りく?」
勢いよくタオルケットを蹴り飛ばす。
寝ぼけていた脳みそが一瞬で目覚めた。
「は、はなび、ちょっと待ってて」
慌てて寝癖を手で押さえ乱れた服を整えながらドアを開けた。
「おはよ、はなび」
「お、おはよ」
照れたように頬を赤らめるその姿に悶絶しそうになるけれど、必死に平然を装った。
そんな俺の戦いなんて知らないはなびは「あの、」と言いにくそうに切り出す。
「現実かな?とか、考えちゃって、来てしまいました」
「っ……」
思わずはなびを抱きしめた。
可愛いにもほどがある。まさか、自分と同じことを考えていたなんて。
怖くなるくらいに幸せだ。
「はなび、好き」
気持ちを伝えると、はなびの身体がぴくっと揺れた。
抱きしめる力を強めてもう一度告げる。
「大好き」
はなびの頭に頬を寄せて、もう一度。
いや、夢だと思ってしまうなら何度だって伝えたい。
「ほんとに好き」
「り、りく……!」
何度も伝えているとはなびがもぞもぞと俺の腕を掴んだ。
恥ずかしがり屋のはなびのことだから怒ってしまったかと思いながら身体を離すと、そこには真っ赤に茹で上がり困った表情をしたはなびがいた。
はなびが俺の手を持ち上げ、そこへ顔を近づける。
昨日の自分がしたことを今度ははなびがし返す。
音もなく柔らかな唇が指に触れた。
その瞬間、全身がドクドクと鼓動を速める。
「好きだよ。私も、ちゃんと好き」
はなびからの二度目の告白は俺への特大の爆弾だった。
離れたはなびが「下で待ってるから!」と真っ赤な顔をして去っていく。
俺は額をドアにごつんとぶつけた。
ずっと夢見ていた夢より鮮やかな現実。
君と過ごす全ての瞬間はスロウモーションのように映る。
これからも俺は深みにはまっていくのだろう。
願わくは、ずっと、永く────。