スロウモーション・ラブ


「はなびさーん、噂になってますねー」

私へニヤニヤとした視線を向けるのは同じ図書委員の新田先輩。

新田先輩が毎回図書委員を選んでいると知ってしまってから、私も毎回図書委員に立候補している。

つまり、そういうこと。

彼が私の好きな人だ。


「彼氏くん超イケメンだね?」

みじんも嫉妬心を感じさせない態度に内心ため息を吐きながら、私は「そうですか?」と冷めた態度をとる。

我ながら、バカだと思う。

りくに提案された時、私はこの人の気を引けるかもと考えてしまった。

もう、諦めると決めたのに。

情けない気持ちをひた隠しに、カウンターで作業をする。

「彼氏いるなら前聞いた時に教えてくれればよかったのに」

「最近なんです、付き合い始めたの」

幼なじみのイケメンよりもこの人に鼓動が高鳴るのだから、これはれっきとした恋だろう。

一年前に転んだ私を助けてくれた瞬間から、私は心を奪われた。

少し気だるそうな雰囲気をもつ新田先輩は、女遊びをしているのだという噂がある。

彼氏がいるいない関係なく遊ぶのだと聞いたけれど、私には手を出そうともしてくれない。

好きだと伝えてしまえば一瞬でこの距離が切られてしまいそうで、1年間、私の立ち位置は変わらなかった。


「こんなとこに俺といていいの?」

「図書委員の仕事じゃないですか」

「うん、二人きり」

語弊がある言い方をしながら、先輩は小説のページをぺらりと捲る。

「やっぱり先輩と小説って結びつかないですよね」

「ディスってる?」

「……褒めてるんですよ」

ぽっと頬が灯るのを感じながら、今日も情けなくアピールをする。

アピールになっていないとはわかっているし、諦めると決めたのに何度同じことを繰り返すんだ、とも思うけれど。

「ギャップ萌え?」

「まあ、そんな感じです」

可愛くないことを言う後輩なのに、ふっと笑みを零した先輩は私の頭をぽんぽんっと撫でる。

ずるい、本当にずるい。


「それにしても、意外と敵いないね」

「何がですか」と訊ねると、先輩は小説を閉じてこちらを見る。

「イケメンくんの彼女なのに、呼び出されたり嫌がらせされたりとかないでしょ」

「そ、そうですね」

「なんでか知ってる?」

「……はい」

そう、最初は学校内でちょっとした騒ぎになった。

あのイケメンには2年に彼女がいる、と。

クラスには私を見に来る人が絶えなかったけれど、りくの態度がみんなを黙らせてしまった。

毎朝手を繋いで登校し、昼休みは一緒にお弁当を食べ、放課後にはまたくっついて帰る。

私の姿を見つければ毎度駆け寄り、ところ構わずハグをする。

そんな私たちを見て「彼女は平凡だけどイケメンが幸せそうだから何も言えないよね」という状態なのだと、友達から聞いた。

りくの演技力は予想以上だったのである。

「はなびちゃん、愛されてるね」

「……まあ、はい」

ちくっと胸を刺す先輩の穏やかな声。私は曖昧な返事をするしかできなかった。

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