スロウモーション・ラブ
「はなび」
図書委員のお勤めを終える頃、図書室に現れたのは噂の渦中のりく。
一応私の彼氏という設定だ。
彼はスタスタと歩いてくると私の手を取る。
私は出来心で、いつになくりくの手をキュッと握り、先輩を見た。
「戸締りしておくから帰っていいよ」
「ありがとう、ございます……」
名残惜しく思いながらお礼を言って、りくに引っ張られていく。
別れ間際の先輩の顔はいつもと変わらなかった。
階段を降りながら、りくの手を握る力がそっと緩む。
(いや、何をしてるの、私……)
先輩に見せつけるようにりくの手を取ったことが恥ずかしくなり顔が火照る。
「はなび?」
「え?」
りくの声が聞こえ顔を上げると、コツンと額を弾かれた。
「な、なに?」
「……いや」
困ったように眉尻を下げた彼だったが、階段の先に女子生徒を見つけた途端に私を引き寄せ、わざとらしく「可愛い」とか「好き」とか言い始めた。
演技だとわかりきっているそれに笑みを返しながら、私たちは帰路へとついた。
地元のバス停へ到着すると、繋いでいた手は自然と離れる。
「なかなか様になってるよね、超恋愛脳彼氏だっけ」
「俺演技の才能あるかも」
とぼけたことを言うその顔は誰もが認めるイケメンである。
それにしても、最初はりくの演技に驚いたものだ。
私の名前にハートが標準装備されているんじゃないかと思えるほど甘い声と表情で呼ばれ、思わず「誰?」と言いかけた。
手を繋いだりハグをしたりというスキンシップも小学生以来だった私は、最初はりく相手に動揺してしまった。
他の女子なら溶けてしまうんじゃないかな、とも思う。