スロウモーション・ラブ
「りくって、付き合うと本当に甘々だったりするの?」
何気なく訊くとりくは照れたように押し黙る。
「……」
「え、ほんとに?」
興味津々に顔を覗き込むとグイッと顔面を押し返された。
その頬が少し染まっている気がする。
「付き合ったことないから知らん」
今まで彼女がいたことがないのは初耳だ。
モテるくせに、とうっかり口にしそうになって言葉を飲み込む。
憎まれ口を叩いては何も話してくれなくなるかもしれないと、平静を装って訊ねてみる。
「よりどりみどり過ぎて選べなかったってこと?」
「イケメンかどうかと、両想いになれるかは別じゃん」
自分でイケメンって言ってる、と思うも、イケメンなのだから仕方ない。
それよりも表情がどこか意味深に感じ、もしかして、と質問を重ねる。
「りく、好きな子できた?」
「……」
「えっ、できたなら……」
黙ってしまったりくに、ニセモノの彼女なんかいたら振り向いてもらえないよと言おうとして、自分へ盛大なブーメラン。
言葉を濁した私に、りくが素っ気なく言った。
「いたら続けてないでしょ」
「たしかに……」
好きな人がいるのにイケメンの彼女のフリをしているバカは私だけだったようだ。
ほんの少し期待していたヤキモチみたいなものも先輩からは微塵も感じられなくて、日々もやもやが募るばかり。
そもそも諦めようとしていたんだったと思い至ったところで、りくが「ねぇ」と私を呼んだ。
「はなびは……」
「ん?」と首を傾げてもりくは続きを話そうとしない。
言葉を待ってみたけれど、結局「何でもない」と会話は終了してしまった。